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家を育てながら、ものをつくる ― STUDIO THE BLUE BOY|House of Blue Boy
アートディレクターとして、国内外でクリエイティブを手がける正田啓介さん。彼が主宰するSTUDIO THE BLUE BOYは、日本各地の伝統工芸と現代のデザインを組み合わせながら、京都で織られるラグ、栃木で生まれるお香、長崎・波佐見焼の香立て、福岡の畳など、それぞれの土地の職人技を活かしたプロダクトを展開しているブランドです。もともとアートディレクターとして活動していた正田さんが、「自分がつくりたいものをつくってみたい」と思い始め、最初にパリで個展を開いたのがものづくりのスタート。そこからラグ、陶器、ファブリックと少しずつ広がってきた歴史があります。今では洗練されたものづくりが国内外問わず支持されています。そんな正田さんが現在進めているのが、The House of Blue Boyというプロジェクト。パートナーと一緒に富士山を望む静岡の一軒家を少しずつ整えながら、ハウスギャラリーとして育てている場所です。 多治見でつくっている美濃焼のタイル、ニュージーランドでつくられたステンドグラスのブラケット、アルミフレームにポリエステルロープを編み込んだオリジナルのアウトドアチェア。ここに置くものは、インテリアから家具まで、正田さん自身が素材や使い心地にこだわって選んだり、つくったりしたものばかり。この自分の”好き”だけを集める家は正田さんにとってものづくりの延長線上にある場所でもあります。そして人が好きで、人と時間を分かち合うことが好きなふたりが、訪れる人たちとゆっくり語り合えるような、あたたかい空間を目指しています。 今回のコラボレーションのきっかけも、そのHouse of Blue Boyにありました。ソファのためにつくった播州織のコットン生地を、もっと日常的に触れるものに落とし込めないかと考えた正田さんが、普段から愛用していたQUILTO代表の長谷川に相談したことから始まりました。 「実用性があるもの、居心地がいいとか、触り心地がいいとか、使う人の目線になることがものづくりのベースにあります」と話す正田さん。もともと東京の自宅のソファがポリエステル素材で、夏場の蒸れや肌馴染みが気になっていたこともあり、House of Blue Boyのソファには肌触りのいい綿100%の播州織を選びました。ただ、コットンはソファ素材としての耐久性に課題があります。そこで生地の製造元と相談しながら樹脂加工を加えることで強度を確保。使う人の感覚から出発して、素材の特性を知る職人と対話しながら一枚の生地を仕上げていく、そんな正田さんらしいアプローチです。 兵庫・西脇を中心に発展した播州織は、先染めの糸で繊細な色柄を生み出す日本の織物文化。STUDIO THE BLUE BOYでも、サシェの生地などすでにいくつかのプロダクトで採用されてきた、正田さんにとって馴染みの深い産地です。今回の生地の柄は、山や木々、湖といったHouse of Blue Boyの周囲の自然からインスピレーションを受けて、丸や四角、オーバルといった形を抽象的に組み合わせたものになっています。 縦糸には白を使い、濃淡ふたつのブルーを組み合わせることでグラデーションを表現。家の大きな窓から見える景色を邪魔せず、でもただの無地でもない。「プレーンすぎても織る意味がないし、激しすぎても空間に馴染まない」と正田さんが話すように、その加減を糸の色の選択から丁寧に考えられました。House of Blue Boyのカラーパレットであるアイスブルー、エンジ、パステルグリーンを軸に、自然と調和できる色を意識して選ばれたブルーのグラデーションは、スリッパの上でもやわらかく、でも確かな存在感を放っています。QUILTOのEGG SLIPPERも実際に使用してくれていた正田さん。この播州織の生地をスリッパに落とし込んだのも、House of Blue Boyの空気感を日常のなかで少し共有できたら、という正田さんの想いからでした。ただのプロダクトではなく、空間の空気を少し変えるためのもの。QUILTOが大切にしてきたことと重なります。 正田さんのものづくりの根底には、「すぐに飽きて捨てられるものは作りたくない」という思いがあります。長く使えるものを、素材から丁寧に選んで、職人と一緒につくっていく。日本の伝統工芸や民芸が持つ強みはそこにあると感じていて、外から新しい視点を持ち込んでデザインとして昇華させることで「全く新しいもの」が生まれると話してくれました。今はこのパレットだけど、それも時代とともに変わっていくかもしれない。でもそれでいいと思っている、という言葉が印象的でした。クリエイターが集まり、世界中の作品やものづくりをきっかけに対話やアイデアが生まれる。House of Blue Boyが目指すのはそんな場所です。今回実際にHouse of Blue Boyを訪れて、正田さんのお話を伺い、この播州織のスリッパがあの空間に置かれているのを見た時、このプロジェクトがとても特別なものだと改めて感じました。PHOTO & TEXT by wataru tsuchiya (Studio QUILTO)EGG SLIPPER × STUDIO THE BLUE BOY 播州織コットン生地使用。5月12日 21:00 JST、STUDIO THE BLUE BOY オンラインにて数量限定販売。EGG SLIPPER - House of Blue Boy / Day - price ¥13,200(税込)EGG SLIPPER - House of Blue Boy / Night - price ¥13,200(税込)
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テキスタイルとひと|YURI HIMURO
YURI HIMUROは、デザイナー氷室友里さんが主宰する東京をベースに活動するテキスタイルブランドです。 他に類を見ないオリジナルでワクワクするテキスタイルを創作するとともに、企業へのデザイン提供や空間演出などのクライアントワークも手がけています。 触れる者に驚きと感動、心地よさをもたらすYURI HIMUROのテキスタイルは、まるで織物の中に物語を紡ぐ小説のような存在です。 デザイナー氷室友里さんの人々を笑顔にする遊び心あふれるデザイン、独自の技術、そして織物と人々との新しい関係を築く試みが、このブランドの核となっています。 デザインの仕事に従事する父親をもち、幼いころからデザインがすぐそばにあった彼女は、多摩美術大学のテキスタイル専攻へ進学、その後はテキスタイルをより深めるために大学院へと進みました。 ”デザインを学ぶにも、身近な、人と触れ合うものがいいなと考えていました。テキスタイルはすごく身近なものですし、家の中の様々な部分にあります。テキスタイルの素材やデザインを学ぶことで新しいプロダクトを提案できるのではと思いました。” 大学院1年目でのフィンランドのアアルト大学での交換留学は、彼女のテキスタイルへのアプローチを大きく変えました。彼女が現地で学んだのは、たて糸とよこ糸の重なりを自由に指示することができ、立体的で絵のようなデザインを可能にするジャカード織です。 氷室さんは現地で技術を学ぶ中で、ジャカード織が持つ自由さと可能性に心を奪われ、帰国してからも日本国内の工場と連携しながら新しいテキスタイルの世界を築き上げていきました。 彼女の作品には、日常の風景、そしてその土地の人々との交流から得たインスピレーションが散りばめられています。留学中に訪れたフィンランド北部ラップランドでの美しい景色や、サウナ後の氷の張った湖での体験など。その風景が織られたテキスタイルを見ると、なんだか自分も一緒にその場で楽しんでいるような気分になります。 SNIP SNAP フィンランドから帰国後に大学院の制作物としてつくったのが、ハサミでカットすると変化するSNIP SNAP、蛇腹絵のような見る角度で柄が変わるmotion textile、そして表裏で柄がかくれんぼしているように見えるHIDE AND SEEK、の計3種類のシリーズ。特にSNIP SNAPはその後の彼女のテキスタイルへのアプローチを象徴するものとなりました。織物の中に隠された物語や驚きを、ハサミで切り取ることで解き放ちます。 "素敵な雰囲気の布をつくる、というよりは、人と布との関わりの中に驚きや楽しさをうみだしたいと思ってつくりました。" 素材としての端材 YURI HIMUROの活動で積極的に取り組んでいることの一つが、生産過程で出る端材や廃材の再利用です。ただ捨てるのではなく、新しいテキスタイルの素材として再解釈しています。それぞれ異なる表情を持つこれらの素材は、氷室さんとスタッフの野口美沙希さんの手によって、有機的に新しい生命を吹き込まれます。 このスリッパ(EGG SLIPPER -LINT01)に使っているのは、BLOOMというブランケットシリーズを生産する時に工場で出る廃材です。 この再利用の試みは、持続可能な生産を示唆してくれますが、それよりも、彼女たちが端材について語る表情や、クリエーションの姿は、純粋に素材そのものとしての魅力を楽しんでいるように見えました。 テキスタイルを通じて YURI HIMUROは、テキスタイルをただの布として捉えていません。それは、日常をちょっと豊かにするもの、そして使い手とプロダクトの新しい関係を築く存在です。 "単純に人に楽しんでもらいたいという気持ちでつくっています。どんな生地があったら驚いてもらえるか、楽しんでもらえるかなと。何かが変化するときの驚きって、小さな子から海外の人まで、言葉で説明しなくても伝わると思うんです。そういうものをつくるのが自分は好きだなと、思っています。" 海外の展示会や講義を通じて、彼女はその魅力を世界中に広めています。彼女のテキスタイルは、カルチャーを超えて人々の心を動かす力を持っています。彼女の作品を通じて僕たちは、テキスタイルの持つ無限の魅力と“日常”の温かさ、楽しさ、そして大切さを感じることができます。まるで彼女の手によって紡がれた、織物の中の物語にいるような感覚です。今回下町に構えるスタジオにお邪魔し、彼女に話を訊くと、良い意味でクリエイターらしくないという印象を持ちました。排他的でなく気取ることがない。やさしく言葉を紡ぎ、僕らを楽しませてくれました。その感性と人柄がテキスタイルを通して世界をワクワクさせてくれている。改めて、とても素敵な時間でした。
2023/9/5








