1. テキスタイルとひと|YURI HIMURO

    テキスタイルとひと|YURI HIMURO

    YURI HIMUROは、デザイナー氷室友里が主宰する東京をベースに活動するテキスタイルブランド。 他に類を見ないオリジナルでワクワクするテキスタイルを創作するとともに、企業へのデザイン提供や空間演出などのクライアントワークも手がける。 触れる者に驚きと感動、心地よさをもたらすYURI HIMUROのテキスタイルは、まるで織物の中に物語を紡ぐ小説のような存在だ。 デザイナー氷室友里の人々を笑顔にする遊び心あふれるデザイン、独自の技術、そして織物と人々との新しい関係を築く試みが、このブランドの核となっている。 デザインの仕事に従事する父親をもち、幼いころからデザインがすぐそばにあった彼女は、多摩美術大学のテキスタイル専攻へ進学、その後はテキスタイルをより深めるために大学院へと進んだ。 ”デザインを学ぶにも、身近な、人と触れ合うものがいいなと考えていました。テキスタイルはすごく身近なものですし、家の中の様々な部分にあります。テキスタイルの素材やデザインを学ぶことで新しいプロダクトを提案できるのではと思いました。” 大学院1年目でのフィンランドのアアルト大学での交換留学は、彼女のテキスタイルへのアプローチを大きく変えた。彼女が現地で学んだのは、たて糸とよこ糸の重なりを自由に指示することができ、立体的で絵のようなデザインを可能にするジャカード織だ。 氷室さんは現地で技術を学ぶ中で、ジャカード織が持つ自由さと可能性に心を奪われ、帰国してからも日本国内の工場と連携しながら新しいテキスタイルの世界を築き上げていった。 彼女の作品には、日常の風景、そしてその土地の人々との交流から得たインスピレーションが散りばめられている。留学中に訪れたフィンランド北部ラップランドでの美しい景色や、サウナ後の氷の張った湖での体験など。その風景が織られたテキスタイルを見ると、なんだか自分も一緒にその場で楽しんでいるような気分になれる。   SNIP SNAP フィンランドから帰国後に大学院の制作物としてつくったのが、ハサミでカットすると変化するSNIP SNAP、蛇腹絵のような見る角度で柄が変わるmotion textile、そして表裏で柄がかくれんぼしているように見えるHIDE AND SEEK、の計3種類のシリーズ。特にSNIP SNAPはその後の彼女のテキスタイルへのアプローチを象徴するものとなった。織物の中に隠された物語や驚きを、ハサミで切り取ることで解き放つ。 "素敵な雰囲気の布をつくる、というよりは、人と布との関わりの中に驚きや楽しさをうみだしたいと思ってつくりました。"    素材としての端材 YURI HIMUROの活動で積極的に取り組んでいることの一つとして、生産過程で出る端材や廃材の再利用がある。これらをただ捨てるのではなく、新しいテキスタイルの素材として再解釈している。それぞれ異なる表情を持つこれらの素材は、氷室さんとスタッフの野口美沙希さんの手によって、有機的に新しい生命を吹き込まれる。 このスリッパ(EGG SLIPPER -LINT01)に使っているのは、BLOOMというブランケットシリーズを生産する時に工場で出る廃材である。 この再利用の試みは、持続可能な生産を示唆してくれるが、それよりも、彼女たちが端材について語る表情や、クリエーションの姿は、純粋に素材そのものとしての魅力を楽しんでいるように見えた。   テキスタイルを通じて YURI HIMUROは、テキスタイルをただの布として捉えていない。それは、日常をちょっと豊かにするもの、そして使い手とプロダクトの新しい関係を築く存在だ。 "単純に人に楽しんでもらいたいという気持ちでつくっています。どんな生地があったら驚いてもらえるか、楽しんでもらえるかなと。何かが変化するときの驚きって、小さな子から海外の人まで、言葉で説明しなくても伝わると思うんです。そういうものをつくるのが自分は好きだなと、思っています。" 海外の展示会や講義を通じて、彼女はその魅力を世界中に広めている。彼女のテキスタイルは、カルチャーを超えて人々の心を動かす力を持っているのだ。彼女の作品を通じて僕たちは、テキスタイルの持つ無限の魅力と“日常”の温かさ、楽しさ、そして大切さを感じることができる。それは、彼女の手によって紡がれた、織物の中の物語にいるような感覚だ。今回下町に構えるスタジオにお邪魔し、彼女に話を訊くと、良い意味でクリエイターらしくないという印象を持った。排他的でなく気取ることがない。やさしく言葉を紡ぎ、僕らを楽しませてくれる。その感性と人柄がテキスタイルを通して世界をワクワクさせてくれている。改めて、とても素敵な時間だった。